デザインの学びに関する構成的研究

Synthetic Research about Design Learning

西山凜太郎|M2

概要

デザインには,実社会の複雑な問題に全力で挑む“野生の実践“(以下,実践)からしか得られない学びがある.しかし,実践から何をどのように学ぶかは,学習者に委ねられている.体系化された知識を教わるのではなく,実践の中から知識をつくり出さなければならない.そのためには,学び方も学ぶ必要がある.

本研究の目的は,デザイン学習者(以下,学習者)が実践から得られる学びの過程と構造を明らかにすることである.そして,「デザインの学びポートフォリオ」として,デザインを学ぶ人たちへ向けて,ひとりの学習者の学習過程を具体的に呈示する.

本研究で扱う学びは,分析的手法だけでその全てを解明することは困難である.そこで「分析的なプロセスを包含する構成的プロセス」を援用した構成的研究を行った.さらに,学びの属人性や個別具体性を重視するため,学習者でもある筆者の一人称研究アプローチによる記述を行った.

本研究では筆者自身の実践を対象とした省察を行い,3つの視点から見た学びの過程と構造を明らかにした.1つ目は「長期的に見た学び(Section-Ⅰ)」,2つ目は「実践過程の学び(Section-Ⅱ)」,3つ目は「省察することによる学び(Section-Ⅲ)」である.

省察の結果,学びという視点から見た筆者の実践は,人間の本質的な営みである「文化的実践」と同様の構造を持つことがわかった.筆者の実践は,その過程で得られた知が,省察によって転移可能な知識となり,次の実践に生かされ,また新たな知を生み出すといったサイクルで繰り返されており,「わかる」ことが前提となる文化的実践の枠組みで説明できる.しかし,毎回異なる文化に飛び込み,文化の内外からの視点を併せ持ち,幾重もの立場で実践に参加するという点は,野生の実践に取り組むデザイナーの特徴であり,他の文化的実践とは異なる.実践を省察することで,このことを自覚できたことが,筆者にとって最も大きな学びであり,教科書などに載っていない新たな知であった.このように新たな知をつくり出す可能性があることが,実践から学ぶことの価値である.

また,省察方法に関する検討も行い,その過程を詳細に記述した.実践から転移可能な知識としてのデザイン知を見出す,深い省察を行うためには,記録物を並べただけでは不十分であり,記録物を構造化し,心の動きまでを視覚化した上で省察を行う必要があることを示した.省察の過程でさまざまな方法によって実践過程を視覚化した図は,単なる中間生成物ではなく,「デザインの学びポートフォリオ」としての具体的な記述方法である.ここで示した記述方法は,広く「経験の記述方法」の検討に繋がる.

研究の過程を詳細に記述することで,「デザインの学びポートフォリオ」として,実践から学ぶ方法と得られた学びを具体的に示した.

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