デザインプロセスにおける創造的思考過程に関する研究

Research on the creative thinking process in the design process

小松 裕奈|M2

概要

本研究の目的は、1週間から一ヶ月という時間的・認知的コストのかかる活動で、アイデア生成から作品完成までの過程を対象に、どのように創造的なアイデアが展開されているのかを明らかにすることである。

対象とした創作活動はいけばなである。いけばなとは、主役となる花材を引き立つように、他の花材を用いて作品を構成していく、草花を用いた芸術作品である。いけばなを対象とした理由は、本研究で取り扱いたい、産出物からの重さ強度などの物理的要因に関する情報が多い活動であると考えたからである。いけばなで取り扱う素材は、花材と呼ばれ人工物とは異なり安定していないものである。そのためスケッチ、アイデアの段階から物理的要因を考慮しなければならない場面が出てくると推測する。

創作活動の一つである「いけばな」に焦点を当て、 いけばなの熟達者であるN 氏の活動に参加した。N 氏は、いけばな教授者、また華道家として40年を超える経験を有している。N 氏の創作活動に参加し、参与観察により集めた創作過程のデータから発話と行動プロトコルを取り出す。N氏の活動を書き起こすことにより、創作プロセスの詳細な検討を行うことができる。

今回の分析の対象としたN氏の活動は大作制作である。2015年4月~2021年4月までに11作品を制作している中から、今年記録した2021年の3作品のデータを対象に分析を行った。

3作品の制作の中で行われた思考過程を分析し、2つの特徴的なプロセスが明らかになった。一つ目は、過去作品との引用関係により生じた「構成のずらし」、二つ目は、花材提供者との花材を媒体としたコミュニケーションによって生じた共創による「アイデアのずらし」である。N氏は過去作品を引用することで、作品に変化をもたらすポイントを見出し、花材提供者とのコミュニケーションによってN氏自身のアイデアに影響を受けていることがわかった。