一人称研究に基づいたグラフィックレコーディングの熟達過程の考察

Consideration on the Mastery Process for Graphic Recording based on First-Person’s View

太田 多生|B4

概要

グラフィックレコーディング(以下GR)とは、議論をリアルタイムでグラフィックによって可視化する手法である。議論で生じた会話や物事の関係性を構造化することで、参加者は短時間で議論の全体像を把握することができる。それが一種の共通認識となり、参加者間で齟齬が生じにくくなる。さらに、描かれたものは議論の振り返りのための議事録として利用できる。GRの活用場面は幅広く、上記のように組織内の議論で活用できる他、思考を整理するためのツールとして一人で活用することも出来る。

近年「グラレコ」の愛称で様々な共創の場に導入され、その関心は高まっている。GRに関する書籍も幾つか出版されており、アイコン・記号を用いた表現の仕方、物事の関係性を表すためのレイアウトパターンといった、初心者が理解し易いGRスキル獲得のための知識が示されている。

一方で、本に記された概念的な知識を得た初心者がどのように熟達していったのか、その過程を記述したものは少ない。しかし、熟達過程で蓄積されたGRに関するノウハウ(手続き的知識)こそスキル獲得に必要なものであり、熟達過程を詳細に記録・分析することでその一部を示せるのではないかと著者は考える。

 本研究ではGR初心者である著者自身が被験者となり、著者が所属する研究室のゼミでGRを実践し、その過程を一人称研究によって記録する。一人称研究とは、外部から客観的に観測した身体の動作だけでなく、本人がどう考えていたのか、どのように感じていたのか、といった内部的な意識もデータとして観測し(メタ認知的言語化)、身体知の解明を試みる研究方法である。著者がGRを実践して感じた内部的な意識と、GRで描かれた成果物をデータとして長期間取得し、それらを照らし合わせて分析することで、GRの熟達過程を明らかにできると考える。